黒沢健一 ソロとして5年ぶりの新曲 ついにiTunes storeで配信決定!

その後、ストリングスセッション、ミキシングなどの作業で東京とロンドンを何度も往復して完成したこの「first」とシンプルに名づけられたアルバムは、発表と同時に音楽誌の選考するその年のベスト・アルバムに選ばれるなど、高い評価を得る。

現実的な側面から見れば、当初の「ホーム・レコーディング構想」からはかけ離れた、最終的に豪華なゲスト陣を迎えたアルバムになってはいるが、一般的に良くありがちなミュージシャン同士のエゴのぶつかり合いをサウンドのキャラクターとして積極的に取り入れた部分はなく、各ミュージシャンが黒沢の楽曲に対して愛情を持ち、一丸となって音楽に取り組んだ暖かな感触と質感を感じさせるこのアルバムは、当時出始めだったプロ・トゥールス等での編集技術を駆使した攻撃的な音質を備えたポップソングがチャートに顔を出し始めた当時においては、よく言えば「普遍的な」悪く言えば「地味」なものであったのは否めない。

しかしながら黒沢曰く、幼少の頃から慣れ親しんだ「翻訳された散文詩」に影響を受けた浮遊感のある歌詞の言葉遣いと、透明でいながら幻想的なサウンドをもったこのアルバムは、今なお多数のリスナーに愛され、そしてこれ以降の黒沢のソロ活動を紐解く上で重要な物となる。

バンドのボーカリストという立場は、良くも悪くもそのバンドのイメージを一身に背負ってしまう傾向がある。

アルバムは好評ではあったがあくまで、“L⇔Rのボーカルのソロ”といった認識が一般的だった発売当時、アルバム発売後に行われたインストアライブで、アルバムからの新曲を期待していたファンに対して彼がアマチュアバンド時代にカバーしていたゴフィン/キング、テンプテーションズ、リトル・リチャード等のカバー等のみを演奏する。

当時は、正式な形でL⇔Rの活動停止を発表していなかったこともあり、ファンには黒沢のお遊び的に受け取られた行為でもあったが、上記のような状況を考えると、黒沢は意識的にプロデビュー以前の自分のアイデンティティをリスナーに訴える事によって、彼なりにソロとしての自分の確立を模索していたのではないだろうか。



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